【純喫茶】この三文字で十分キャピキャピした若い女の子たちを寄せ付けないお札のような役割を果たせている。スパゲッティを空中からフォークが吊り上げているサンプルを置いてあるショーケースには、ご丁寧に昔流行ったアニメのフィギュアが散在しており、キャピキャピしていない若い男の子すら寄せ付けない、結界のようなたたずまいである。
予定より15分遅れて彼は到着した。ボソボソした声でウェイトレスに、『ホット』と、告げ、奥へ向かう。いつものように彼女は一番奥の席に居た。場違いに若い彼女がこの店を気にいることは期待していない。ただ、全席もれなく灰皿が置いてあって、キャピキャピした客が居ない環境は彼女にも好都合のはずである。携帯電話を使っても店員が何も言わないことも好条件だ。
彼女の向かいに座る前に、彼は封筒を手渡した。ボソボソと、『急いで数えなさい。』と、告げ、彼女が従った。その間に彼は着席し、テーブルの上に書類を並べた。『ちょうど150万円です。』それを聞いて安心し、『急ぐから…』とボソッと言うと、彼女は、『今朝の分です。もう【組んで】ます。』と、分厚い書類の束を渡した。『コーヒー、飲んでていいよ。』彼はすぐに店を出た。
彼女はテーブルの上の印鑑証明書と委任状の印影を照合してから、持参した書類の間にホチキス留めして【組んで】いった。時々失敗するが、灰皿の中にホチキスの針を捨てていけるので、タバコ臭いこの店が気にいっている。店を出て収入印紙を購入し、法務局に書類を出す。彼は次の決済の立会いに向かい、お金を待つ間に書類を【組んで】、彼女の立ち会った午前の決済分と一緒に法務局に出す。必ず間に合わせなければならない。【先生】方が走る。
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