『もう前に来てくれた時みたいな立派な家に住んでる訳じゃないよ。』『わかってる。築30年超の西向きアパートでしょ?』『あれ?そこまで話したっけ?』『送ってくれた写メ、不動産屋ならわかる背景だったから。』友達の住環境の落差が激しいことを知ったのは、そのメールを受信した日でした。
『人生の中で立派な家でいい暮らしをしていた時期があったというのは事実だし、思い出は思い出として大切にして、前向きに生きていこうよ!』『私は建物にそんなに執着しないからなぁ。今の方がよっぽど幸せだと本当に思ってるんだよ。』外車乗ってた人が軽自動車に乗るようになっても?
立派な家から徒歩30秒ほどの公園まで一緒に向かった時刻は、彼女が毎日私にメールを送ってくれる定刻の15分ほど前でした。幼稚園から戻った子供がママにカバンを預けてお友達と遊んでいます。当時の日本人女性の髪は限りなく黒に近いこげ茶で、集まって話しこんでいるママたちを遠目に見ていると、『黒山の人だかり』という言葉を思い浮かべました。『これから長いよ。座ろう!』
黒山から離れたベンチに二人並んで腰掛けて、遊び続ける子供たちを見ていました。…飽きます。長文メール書くのにちょうどいい時間かも知れません。ママたちが私たちの方を向かないのを良いことに、ママたちを観察してみました。『地味に見えるけど若そうね。』『全員私たちより年下よ。』
普段はベンチに一人、無言で待つようです。遊び終わった子供が一緒に家に入る時、『父は今日お仕事ですので。』と言って頭を下げました。パパが不動産屋さんなら水曜不在はヘンかも知れないけど、君のパパは土日だけ休みのはず…。毎日パパの帰りが遅いのは仕事が忙しいからなのだと、自分で自分に言い聞かせているようで心苦しかったです。『お仕事だから、仕方ないよね。』
浮気もろバレの旦那は、建てたばかりの家の壁紙がヤニだらけになるのはダメだと妻に文句を言っていたそうです。彼女は換気扇を回しながら隠し灰皿を取り出しました。『ぷはぁ。窮屈な思いして暮らしてるのよ。』『ねぇねぇ?金髪やめて黒く染めたらママ友達とお喋り楽しめるようになるんじゃない?』『絵に描いたような平和な家庭の主婦たちと何を話すのよ?ぷはぁ。』せめて同学年だったら昔流行ったアイドルとか共通の話題もあったのにな、と、残念に思いながら聞いていました。
子供はキレイな顔以外はママに似なかったようで、上品な黒髪のままグレずに成長しています(…失礼!)。立派な家のLDKと比べて広いとは言えない居間には灰皿が鎮座していて、彼女はバイト前にのびのび一服しています。『入れ物より中身!親子揃ってそこそこ幸せに暮らせることが大事なのよ。』手数料の高い物件を仲介するだけが幸せへのご案内になる訳ではないようです。
画像だけですが、お土産おすそわけ!