【人はパンのみにて生くるに非ず】←悪魔の誘惑を退けようと発せられた言葉です。
ある不動産会社のためにお金を稼いでくる部署は営業部(仮名)であり、私はそこで経費を使わせるパートをしておりました。その近くには経費を使わせる総務部(仮名)の事務所が有り、接客スキルとか事務処理速度とかを期待されなくなった方が何人か在籍しているように見えました。勤続年数の長い人の集まりだから粗相の無いように、とだけ言われてきました。
『ちょっと、パートさんたち。総務部の方からの連絡があるから全員聞いて。』営業部の社員さんが若干迷惑顔で私たちを呼びました。『じゃあ、あとはよろしくお願いします。』総務部の言うとおりにしなさいという意味なのでしょう。『総務の仕事が大変だから、1人か2人、手伝いに来て欲しいの。』不動産業界に身を置いたことのある人間なら、今が繁忙期ってご存知ですよね!パート全員が思ったと思いますが、みんなおりこうさんなので文句は言いませんでした。
全員が仕事をたくさん抱えていて、本当のところ、手伝っている余裕なんてありません。でも、営業部が逆らえない相手からの要望であり、どんなに嫌がっても拒否できないのでしょう。嫌がることで心象を悪くする前に腹をくくるべきだと判断しました。『自分で言うのもなんですけど、私は人の二倍働けます。私一人加わるだけで大丈夫だと思いますよ。』同僚パートのみなさん、私が抜けたあとの営業部をよろしくね。無言で送ったテレパシーは伝わったと思います。

手伝うことになったお仕事は、エクセルで作ってみた表が正しく計算してくれなくて(?)、SUM関数を疑う必要があるから全部電卓叩いて検算しないと(!)という感じの内容。『元データを最初から見直してみた方がいいかも知れませんね。』一応言ってみたし、総務部のオジサンの中には、『営業部のやり方に変えた方がいいんじゃないのか?』って言って下さる方もおられたけど、私を連れてきたオバサンは私が自分の言う通りに動くことしか望んでないご様子。
オバサンが納得する程度にしばらく動いてから、徐々に総務部が必要としていたはずの業務を片付けられるようにしていきました。『ずっと一人でこれ抱えてきたけど、やっと今日で終われる気がするわ。』『たった一人でパソコンに向かい続けるお仕事って気が滅入っちゃいそうですよね。大変ですね。』『そうなのよ。私の苦労わかってくれる人が居て良かったぁ♪あっ、そうだ…』
この手のオバサンがもったいつけて出してくれるおやつ。だいたい予想できるけど、『常識的に想像してたのと違うじゃない!』って顔で落胆したら好意に対して失礼です。非常識的に過度の期待をしてしまう、お目出度い女になりきる方が雰囲気を壊しません。『アレッ?その小さな冷蔵庫からウェディングケーキが出てくるんじゃなくって?』って大きく期待した後でガッカリする方が面白いと思うんですよね。『私のケーキ、半分あなたに分けてあげるわ。』
『ケーキ?!ケーキですかっ?♪パパパパーン♪パパパパーン♪』夏の夜の夢より、結婚行進曲を上機嫌な不動ゆり子が熱唱。『え?え?そんなケーキ期待されたら出しづらいじゃない。』オバサンが出してくれたのは、ウェディングケーキでもショートケーキでもなく、蒸しパンでした…。1本500円ぐらいするロールケーキが出てくるかと思っていたので本当は驚いていました。
『うふふ、冗談です☆今日は頭使いすぎてお腹すいてたので、おやつ嬉しいです♪』オバサンをご機嫌にしつつ本来の業務を片付けたことで総務部に貢献したよ…という意味で営業部のお役に立てたと思いますし。総務部に引っ張られる人員を一人に絞ったという意味でも営業部のお役に立てたと思いますし。同僚パートさんたちが私の抜けた分いつもより多く働いている間に、別室で私が好き勝手に歌ったりおやつ(1個98円の1/2量)頂いたりしていても…許されますよね?美味しく頂きながら、パンとケーキはだいぶ違うと思っておりますが、何か?