ごくまれに、『俺の代わりに売ってきてよ。』…なんて冗談を言われますが。不動産屋さんでパートが営業マンにヘンなこと命令されることはございません。言われたら何でも従うスタンスです。ただ、そればっかりだと飽きてしまうので、言われる前にして欲しそうなことをして見せます。『金、銀、鉄。どの斧が欲しいですか?』って指示待ちスタイルで居るより、『本当は鉄しか持ってないけど、金も銀もあわよくば欲しいと思ってるんでしょう?差し上げます♪』って先読みして驚かせたいのです。
驚かせるために必要なのは、沈黙。営業マンの動きなんか気にかけてません…ってフリをしておいて、突然、『ハイ!これ探してたんでしょう?』って言いたいから。珍しい時間に敏腕営業マンが戻ってきたと思って黙って観察していたけど、様子がおかしいです。そもそも帰りが早すぎる。何か嫌なことが有ったというお顔ではないけど相当お困りの様子。仕方ありません。『何かお探しですか?』
『今日って事務員さん休みで、店長は夕方まで戻って来ないんだよね?』『そうですね。』『ン○万円預かってきたけど、金庫を開けられる人が居ないってことだ。』『大金を持つ緊張感から解放されたいってことですか?一日でン○万円でもおろせるっていうキャッシュカードお持ちでしたら銀行に預けてしまうとか、いかがでしょう?』ない知恵を絞ってみましたが…『いや、俺が持ち出したみたいなのじゃなくて、金庫の中が良かったんだよ。』…金庫にこだわっておいでです。難しい要求ですが。
『なるほど、ダイヤル式の金庫ですね。店長でも事務員さんでも開けられるということは、わかりやすい番号か、どこかにその番号のメモを隠しているかのどちらかでしょう。』『そんな番号知るはず無いし。』『店長が鍵とか大切な物を隠すとしたらココじゃないですかね…あ、コレそうかも?』『待って待って!金庫を開けて欲しい訳じゃないんだ!』『違うんですか?この紙切れ開いたら開け方わかるかも知れないのに?』『もう金庫のことは忘れて!店長の引き出しとか元通りにしておいてよ。』
せっかく帰社されたのに、大金を持ったまま次のお仕事に出かけられました。営業マンの望みは緊張感からの解放に間違いないと確信したのに、お役に立てなくて残念でした。そこは残念でしたが、もうちょっとの所でストップかけられたのは、きっと私のためを思ってのことです。泥棒に物色されたみたいに全ての引き出しを開けられた店長の両袖机を、営業マンの優しさに感謝しながら完全に何もなかったかのように戻しておきました。昼下がりのやりとりは、営業マンと私だけの秘密です。